天正6年(1578)当時、鬼子母神門前には百姓家が2〜3軒ほどあるだけで、耕地を所持していないものは参詣者に湯茶や団子などをだす水茶屋の商売を営んでいたようである。
現存する鬼子母神堂が建造された寛文年間(1661〜1672）頃から、雑司ヶ谷鬼子母神は子授け・安産、子育ての信代仰を集めるようになり参詣客が急増した。参詣土産のひとつとして「すすきみみずく」とともに「川口屋の飴」があり、江戸名所図会を見ると鬼子母神境内に飴屋が数件描かれているのがわかる。
「御府内備考」52巻によると川口屋忠治というものが正徳時代から、鬼子母神境内で当時は高級品だった切り飴を売り始 とある。 「川口屋」の家名 は近くを流れる弦巻川の流れが尽きぬことを祝してつけた。
弦巻川の弦(つる)を鶴に替えて 「鶴の丸」を家紋にしたとある。川口屋は繁盛し、それにあやかり名代を借り、川口屋を 名乗る店が続出した。
▲「雑司谷鬼子母神堂」 (「江戸名所図会」所収) 天保5年(1834)〜7年刊 。右下に「門前両側に酒肉店多し、 飴をもて此の地の産とし、川口屋と 称するものを本元とす、其家号を称 ふるもの今多し」と記されている。
▲川口屋の飴袋 「川口屋忠治」の屋号が記されている。鬼子母神参詣土産としてブランドであったことがうかがえる。唐飴はもち米を粉にして、煮詰めて糊状にし、水飴、砂糖 を加え固めたもの。
取材協力：豊島区立郷土資料館『豊島の選択』より加筆転載）
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