「藪そば」のルーツは雑司ヶ谷 ！？
秋の新そばが出回っている。歳時記でもそばは冬の季語であるように、これから冬にかけ点は「そば」は旬である。
江戸時代にすっかり定着したそば食だが、 「砂場」「更科」 「藪」という大きく分けて3つの系統があるが、中でも藪そばのルーツは雑司ヶ谷にあったと いわれる。 江戸時代中期(１８世紀前半)に鬼子母神の東の方の藪の中に、あった百姓家で出された「藪そば」が元祖と言われる。『拾遺続江戸砂子』(享保２０年)巻一にも、「雑司ヶ谷鬼子母神 蕎麦切 社地の東の方、茶屋町をはなれて藪の中に一軒有」と紹介されている。また、寛延４年に、江戸の 住人であった日新舎友蕎子と いう人物によって書かれた唯一 の蕎麦専門書「蕎麦全書』で は「藪の中爺がそばとて、雑 司ヶ谷の路辺藪の中に小家有り て蕎麦を拵へうれり、生そば にてまじりなしとて、人々大き に賞し、手前より汁を拵へたづさへ往きて食する者あり。田舎そばはよろしけれ共、汁悪敷故也」とある。
つまり江戸市中からわざわざ雑司ヶ谷に客がやって来て、評判の「まじり物のない田舎そば」を食べる。しかし「蕎麦はいいが、汁がどうも・・・」という評判で店に来る客がそれぞれ。 「つけ汁」を用意して来たということだろう。つけ汁の味を想像するのも楽しい。 当時,雑司ヶ谷を代表する文化人の一人戸張り喜惣治。かれは刀剣の鍔や飾り物の細工で名工と讃えられ絵画や詩歌に造詣があり絵師の酒井抱一や大田南畝とも親交が深く、その喜惣治の父親が始めた藪の中の蕎麦として評判があったようで、南畝が、「見渡せば麦の青 葉に藪のそばきつね狸もここヘ喜惣次」の狂歌を与えている。当時の雑司ヶ谷は「きつね、たぬきも来そうだ」というほど草深い土地であったのだろう。
１９世紀半ばの江戸切絵図を見ても、鬼子母神の周囲は畑ばかり。そのような緑の多い土地 へ大田南畝たちはそばを求め、しばしば訪れていた享和〜文化の時 代。こうした文化人の交流により雑司ヶ谷の文化は円熟していくのである。
▲雑司ヶ谷地域が描かれた江戸切絵図 (部分)
「嘉永新鐫雑司ヶ谷音羽絵図」(部分、複製)
※鬼子母神の下に位置している「本能寺」は 「本納寺」のこと
(資料提供:豊島区立郷土資料館)
取材協力：豊島区立郷土資料館 （『豊島の選択』より加筆転載）
|
前のページ 地名由来について探る 「雑司ヶ谷」村と記すよう命じた徳川吉宗 |
コンテンツのトップ |
次のページ 歌川広重の描く神田川の橋 |
江戸ことば 月ごよみ
