雑司ヶ谷鬼子母神は、現存の鬼子母神堂が建立された寛文年間(1661〜72)頃から子授け、安産などの信仰を集める ようになり、参詣客は急増する。 門前には茶屋や料亭、土産物屋が建ち並び、その中で風車、麦 藁細工の角兵衛獅子、すすきみみずくが土産物として有名だっ た。
『江戸名所図会』(巻之四) には「この地は遥かに都下を離るるといへども、鬼子母神の霊験著明しく諸願あやまたず協へたまふがゆゑに、つねに詣人絶えず。(中略)風車、麦藁細工の獅子、 川口屋の館をこの地の名産とす」 とある。中でも風車は『遊歴雑記』によれば、元禄頃、現高田 一丁目にあった尾州公の屋敷に仕 えていた酒井宇平次が考案、雑司ヶ谷の専右衛門が作って境内で売り出したという。
また、「高田四ッ家町に住み し粂といへる女子製し初めたり といふ。この粂女に母一人あり しが、家貧しく孝養心のままな らざりしことをなげき、つねに雑司ヶ谷の鬼子母神へ詣し、深 くこのことを祈願し奉りしに、 その至孝の冥慮にかなふにやありけん。寛廷二年の夏、麦わらをもつて角兵衛獅子の形を造りそめたりしが、その頃雑司ヶ谷 の鬼子母神ことに参詣多かりし頃なれば、この獅子買ふ人夥し く、つひに麦わら細工のために その身さかえければ。それより後は心やすく母を養ふといふ」 とある。
「すすきみみずく」も貧しく病気の母親の薬を買えなかった娘が鬼子母神に祈ると夢の中に鬼子母神が現れ、「スス キの穂でみみずくを作り、それ を売って薬代にしなさい」とお告げがあり、その通りにしたと ころ、みみずくは飛ぶように売』 れて薬を買うことができたとい う「孝行娘」の言い伝えがある。
いつのころからか風車、角兵 衛獅子が姿を消し、「すすきみ みずく」のみが郷土玩具として 現在まで続いているのである。
▲『江戸名所図会 巻之四』(長谷川 雪旦画)では、「御休みところ」の看 板を掲げる茶屋の店先に藁束に風 車や麦藁細工の角兵衛獅子、そし てすすきみみずくをさして売られてい る様子が描かれている。
取材協力：豊島区立郷土資料館『豊島の選択』より加筆転載）
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