☆勝海舟（1823〜1899）
勝 麟太郎。本所にて生まれる、父は旗本小普請組 勝小吉。直心影流剣術免許皆伝。赤坂にて蘭学塾「氷解塾」を開く。長崎海軍伝習所に入所。咸臨丸にて渡米。神戸海軍操練所を開設。江戸城無血開城を実現。明治維新政府の参議･海軍卿･伯爵。
�稿�本一の富士が見えた
閏3月12日、咸臨丸はメヤアイランドから再びサンフランシスコに戻って、帰り支度を始めた。
そのなかで、中浜は、ウェブスター辞書を買った。
鈴藤はホテルで飼っていた赤い鳥をシゲシゲと観察していた。「まるで若冲の絵のような鳥だ。」
「ジャクチュウ？ 鈴藤さん、何ですかそれは」。横にいた根津が不思議そうな眼をして訊いてくる。
「伊藤若冲、今から百年以上も昔の日本の絵師だよ。この鳥にそっくりの絵を描いているのさ」。
「鈴藤さん。これからは絵より写真ですよ」と言って福澤は、モンゴメリー街のショウという写真館で、そこの娘ドーラと並んで撮って持ち帰った。
後で聞くと、水夫の向井仁助も、松尾延次郎も、写真を撮っていたらしい。
一方、悲しいこともあった。熱病に襲われていた源之助と富蔵がとうとう異国の地で死んでしまったのである。さらに悪いことには、咸臨丸が帰国の途につこうというとき、峯吉、松太郎、治作、好平、延次郎、栄吉、久太夫、滝蔵の八人の水夫が熱病に罹ったため、サンフランシスコの病院に付添の吉松と惣八と共に残されることになったのである。病人には、米、味噌、鰹節、醤油、梅干が特別枠で与えられた。
閏3月19日(太陽暦アメリカ時間：5月8日)、咸臨丸はサンフランシスコ港をあとにすることになった。吉松と惣八が港まで見送りにやって来た。その顔は不安を隠しながら笑っていたが、とうとう最後には泣きじゃくっていた。
咸臨丸の帰路といえば、まったく順調であった。往路は乗組員の間でギクシャクするところはあったが、「初めての長い航路のうえに、東の江戸人と長崎や塩飽などの西の人間では、言葉が通じないところもあるし、また気質もちがう。あるていどはやむを得ない」と木村は端から予測していた。しかし、帰りは乗組員全員がアメリカ滞在という共有物をもっている。皆、和気藹藹と従事した。
ただ残念なことに、病のためサンフランシスコに残留していた火夫峯吉(長崎出身･37歳)は異国の地で死んでしまった。葬儀は、ブルークに依頼された東洋貿易商C.W.Brooks (C.W.ブルックスは、後にサンフランシスコ初の日本領事になった) が執り行い、源之助と富蔵が眠るローレル丘に葬られた。共に弔った吉松と惣八は、そこまでしてくれたブルックスを心底から信頼するようになった。
【サンフランシスコ、咸臨丸乗組員の源之助･富蔵･峯吉が眠る墓】
同年(万延元年)5月5日(太陽暦日本時間：1860年6月23日)だった。ついに咸臨丸一行の眼に日本一の富士山が小さく見えた。皆は甲板に走ってきた。なかには、冨士に向かって手を合わせる者もいたし、航海中ずっとマストに掛けていた金毘羅様の絵馬に向かって深々と頭を下げる塩飽衆もいた。
「帰ってきた。日本に帰ってきた。」と隣の者に抱き付く者もいたし、「やっぱり、日本が一番じゃ」と涙を流す者もいた。
「これで米の飯に味噌汁、漬物が思いきり食えるゾ。」
勝は笑いながら、思った。「さあ、今日からが�狷�本丸�瓩旅匈い了呂泙蠅澄�これからは嫌でもアメリカなど多くの国々と付き合っていかなければならんだろう。そのためにも、日本は欧米に負けぬほどの実力をつけねば･･････」と。
【塩飽諸島、塩飽水主顕彰碑】
〔完〕
☆あとがき
筆者ら16名はTokyo Soba Meister Kanrinmaruというチームを結成し、2010年の4月にサンフランシスコを訪れ、�〜輓了�公邸、��日系人老人ホーム、��さくら祭りレセプション会場の三か所で、蕎麦を打ち、振舞った。
また、その年は咸臨丸遣米150周年に当たっていたため、出発前には[1]勝海舟の曾孫様を表敬訪問し、[2]勝海舟邸跡(両国、赤坂、洗足池)、[3]浦賀の咸臨丸出航記念碑を訪れ、サンフランシスコにおいては(1)リンカーン･パークの咸臨丸入港記念碑と、(2)Colmaの日本人共同墓地に改葬されている源之助･富蔵･峯吉のお墓参りをした。
【勝海舟の曾孫様をお訪ねして】
【SFで見かけた､咸臨丸遣米150周年のポスター】
写真：福島和子(江戸ソバリエ･ルシック)、北川庄司(江戸ソバリエ、鵜の会)、ほしひかる(江戸ソバリエ協会)
参考：勝海舟曾孫様のお話、勝海舟『氷川清話』(角川文庫)、『赤松則良半生談』(東洋文庫)、福沢諭吉『福翁自伝』(旺文社文庫)、土居良三『咸臨丸海を渡る』(未来社)、土居良三『軍艦奉行木村摂津守』(中公新書)、中浜博『私のジョン万次郎』(小学館)、「咸臨丸子孫の会」のホームページ、文倉平次郎『幕末軍鑑咸臨丸』(中公文庫)、浜田義一郎『江戸たべもの歳時記』(中公文庫)、宮永孝『万延元年の遣米使節団』(講談社学術文庫)、子母沢寛『勝海舟』(新潮文庫)、藤井哲博『咸臨丸航海長、小野友五郎の生涯』(中公新書)、井伏鱒二『ジョン万次郎漂流記』(新潮文庫)、植松三十里『桑港にて』(新人物往来社)、石川榮吉『海を渡った侍たち』(読売新聞社)、久米邦武編『米欧回覧実記』(岩波文庫)、野上弥生子『欧米の旅』(岩波文庫)、三島由紀夫『アポロの杯』(新潮文庫)、司馬遼太郎『アメリカ素描』(新潮文庫)、�蠅砲鵑戮鵑里�話
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