コラム(江戸魂千夜一話)

青山富有柿プロフィール
かわら版指南。趣味は読書と散歩。好きな食べ物はお蕎麦。
江戸東京下町文化研究会会員。

江戸魂千夜一話概説
 江戸時代の庶民生活には何かとてもいい雰囲気があったような気がしています。そこには生活のためのいろんな知恵がつまっていたのではないかと思います。時代の変遷を繰り返すうちに、そのよさがだんだんと失われつつあるとはよく言われることですが、探せばまだまだたくさんあると思っています。 
  このエッセイでは、江戸のよさを感じさせてくれるような、おもしろいエピソードをたくさん探し出してきて、簡潔にわかりやすく紹介していきたいと思っています。

第十話「ほおずき市」
 ほおずき市と言えば浅草寺が有名だが、実は芝の愛宕神社の方が歴史は古い。
参拝すると百日分、千日分のご利益がある日を、観音様の功徳日(くどくび)という。功徳日は毎月一日だけ設けられ、中でも7月10日は最もご利益が大きく、千日分に相当すると言われる。ほおずき市はこの日の縁日として愛宕神社で開かれたのが始まりである。
享保年間(1716〜36)になると、「千日」のご利益がさらに増えて「四万六千日(約126年分)」になる。米46,000粒がおおよそ一升分にあたるので、「一升」を「一生」にかけたのが由来とされているが定説はない。
「四万六千日ならば浅草寺が本家本元である」という理由で、やがて浅草寺の境内にもほおずき市が立つようになった。9日も開かれるようになったのは、参拝一番乗りを競う人々で前日からにぎわうようになったからだという(以上、浅草寺HPより)。
数え切れないほうずきと、それに結わえつけられた風鈴が、風になびいてちりんちりんとそよぐ夕暮れの浅草寺。うちわをあおぎながら、笑顔で談笑する浴衣姿の若者たちや、揚げまんじゅう(これはうまい!)をほおばりながら、手をつないで歩くカップルや家族連れ。ほおずき市は毎年たくさんの人々でにぎわう江戸の夏の風物詩である。
件の江戸っ子と出かけるのは、いつも二日目(つまり功徳日の10日)の夕方7時ころである。ひとあたりほおずき市を見物して回った後、行きつけの蕎麦屋でゆっくりと時間をつぶす。お店の外から聞こえてくる楽しそうに談笑する声やカランコロンという下駄の音を聴きながら静かに日本酒をたしなむ。祭りの隠れた楽しみである。
すっかりできあがってから、再度ほおずき市に繰り出す。どのお店もそろそろ閉店の準備に入り始めている。数時間前とは打って変わって、ほとんどのほおずきは売れてしまい、人もまばらで閑散としている。
その横で「どうするのそのほおずき」とか何とか言って、江戸っ子の値切り交渉が始まる。ほおずき市は今日でおしまい、来年までないわけだから、売れ残っては困るはず、値下げしても売れた方がお店は喜ぶはずだというのが江戸っ子の主張である。けっこういいのが残っていたりすると「残りものに福あり」とか言って喜んでいたりする。
年に一回しかない四万六千日のご利益をいただける日なのだから、ほおずきを値切るより、お参りした方がよっぽどいいのにと思う。が、江戸っ子の幸せそうな様子を見ていると、参拝しなくても最低百日分のご利益はあったような気もしてくる。
今年は愛宕神社のほおずき市(6月23・24日)ものぞいてみることにしよう。

浅草寺 http://www.senso-ji.jp/annual_event/shimanrokusennich.html
愛宕神社 http://www.atago-jinja.com/event/
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