コラム 「寄席à la carte(アラカルト)」
白滝清流(しらたきせいりゅう)氏 著述家。

江戸町人文化研究家。元新聞社勤務。文献とフィールドワークを通じて江戸町人文化を探求している。本コラムでは「寄席」にスポットを当て、現代へ引き継がれた江戸の民衆文化を考察します。  
◎第七回 映画「浜の朝日の嘘つきどもと」*1の柳家喬太郎
噺家は、身振りと表情だけで日常のあらゆる動作を巧みに表現する。小道具は扇子とてぬぐいだけ。その表現力は驚異的で、あるときなど、蕎麦を食べる姿があまりに真に迫っていて、期せずして会場から拍手が沸き起こったほどである。噺家は日常表現の名手と言っても過言ではない。
そんな噺家が映画に出演したらいったいどうなるのか。柳家喬太郎師匠が出演する映画「浜の朝日の嘘つきどもと」を視に久しぶりに銀座まで出かけた。

「浜の朝日の嘘つきどもと」は、福島中央テレビが開局50周年を記念して制作した、同名のオリジナルテレビドラマの前日譚である(テレビ版は今年1月にTOKYO MXテレビで放映された)。福島県の南相馬市にある小さな映画館「朝日座」を舞台にした人情ドラマで、柳家喬太郎師匠は映画館の支配人・森田保造を演じている。映画もテレビ版も主演は高畑充希。テレビ版では、映画監督を演じる竹原ピストルを中心にドラマが展開するが、映画では大久保佳代子が、高畑に大きな影響を与える高校教師として、重要な役どころを好演している。脇役にも芸達者がそろい、配役が絶妙である。

喬太郎師匠の演技はどうだったのか。
視る前に気がかりだったのは、噺家の卓越した表現力が、スクリーンでは演技過剰に映り、視る者に不自然な印象をもたらさないだろうか、ということである。噺家は普段高座で、湯飲みや箸など、そこにないものを、あたかも存在するかのように見せる。ところが映画では小道具がすべてそろっている。日頃の習慣で、つい高座と同じように表現してしまわないだろうか。
しかしそれはまったくの杞憂だった。最初のうちこそ、多少のぎこちなさを感じないでもなかったが、物語が進行するにつれ、まったく気にならなくなった。演技は自然で、心配した表現の過剰も感じられなかった。
喬太郎師匠は持ち前の勘のよさで、監督の意図をすばやく理解し、同時に芸達者の共演者たちからは、要領よく演技のコツを学んだのではないだろうか。映画は文化なのだから、映画館は何としても維持しなければならない、という主人公の思いは、何となく落語や寄席の文化を守りたいという、噺家の思いともだぶる。そんなところも喬太郎師匠が役柄にフィットした要因なのかもしれない。

噺家には基本的にアクター*2としての素養があると思う。どんな役柄もその人になりきって演じることができるからだ。本物のアクターになれるかどうかは、表現力を上手くコントロールできるかどうかにかかっている。喬太郎師匠は、その噺家としての類まれな表現力を、巧みに制御していたと思う。機会があればまた、アクターとしての柳家喬太郎を見て見たいと思った。
ちなみに、喬太郎師匠に次回作で取り組んでもらいたい役柄は、「善人そうな悪人」である。いい人だと思っていたら、実は一番悪いやつはこいつだったみたいな役である。どんでん返しの結末に、背筋の凍るようなぞっとする怖さを味わうこと、請け合いである。

思いがけず柳家喬太郎師匠に関するコラムが三回続くことになった。本当は、噺家が多数出演する「二つ目物語」(林家しん平監督 今秋公開予定)を題材にコラムを書くつもりだった(公開されたら改めて取り上げるつもりである)。映画が公開されないので困っていたときに見つけたのが「浜の朝日の嘘つきどもと」だった。
映画を視てすぐに紹介しようと思った。映画への愛と、日本人のやさしさにあふれた、とてもいい映画だ。おすすめである。

*1「浜の朝日の嘘つきどもと」 

福島県南相馬に実在する映画館を舞台に、映画館の存続に奔走する女性の姿を描いたタナダユキ監督のオリジナル脚本を高畑充希主演で映画化。100年近くの間、地元住民の思い出を数多く育んできた福島県の映画館・朝日座。しかし、シネコン全盛の時代の流れには逆らえず、支配人の森田保造はサイレント映画をスクリーンに流しながら、ついに決意を固める。森田が一斗缶に放り込んだ35ミリフィルムに火を着けた瞬間、若い女性がその火に水をかけた。茂木莉子と名乗るその女性は、経営が傾いた朝日座を立て直すため、東京からやってきたという。しかし、朝日座はすでに閉館が決まっており、打つ手がない森田も閉館の意向を変えるつもりはないという。主人公・莉子役を高畑が演じるほか、大久保佳代子、柳家喬太郎らが顔をそろえる。本作と同じタナダユキ監督&高畑充希主演で、福島中央テレビ開局50周年記念作品として2020年10月に放送された同タイトルのテレビドラマ版の前日譚にあたる。2021年製作/114分/G/日本 配給:ポニーキャニオン(映画.comより)

映画『浜の朝日の嘘つきどもと』公式サイト http://www.hamano-asahi.jp

「浜の朝日の嘘つきどもと」福島中央テレビ開局50周年記念オリジナルドラマ http://www.fct.co.jp

浜の朝日の嘘つきどもと : 作品情報 - 映画.com http://www.eiga.com

*2アクター〘名〙 (actor) 映画や演劇などで、役を演じる者。俳優。役者。とくに、男優をさすことが多い(精選版 日本国語大辞典より抜粋)。
 



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 浅草演芸ホール(浅草)http://www.asakusaengei.com/
 新宿末廣亭(新宿三丁目)http://www.suehirotei.com/
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◎第六回 「柳家喬太郎の『芝カマ』で考えたこと」
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