第三話「酉の市(とりのいち)」

第三話「酉の市(とりのいち)」

 毎年11月は鷲(おおとり)神社の酉の市に出かける。
12日おきの酉の日に開催されるので酉の市が二回の年と三回の年がある。
今年は11月3日(日)が「一の酉」、15日(金)が「二の酉」そして27日(水)が「三の酉」と、三回の年である。三回ある年は火事や異変が多いと言われ「火除守り」が配られたりする(有料)。
酉の市は東京の各所の神社で毎年開催されているが、鷲神社(台東区)、花園神社(新宿区)、大國魂神社(府中市)が特に有名で、これを称して関東三大酉の市という。毎年出かけるのはこのひとつである台東区の鷲神社である。
例年参道を歩いていると、大きな熊手を誇らしげにかざして歩く中小企業の社長さんらしき人や商店街の店主さんと何度もすれちがう。この熊手は「縁起熊手」と言われ、翌年の開運招福・商売繁盛を願った縁起物で、七福神や米俵、大判小判などでめでたく飾られている。翌年の更なる開運招福を願って毎年少しずつ大きくしていくのが良いとされている。大きな熊手は毎年お参りしていることの証でもあるわけだ。
いつもいっしょに出かける江戸っ子は、駅の改札口を出る前からうれしくて仕方がない。まるで本人が酉の市の主催者であるかのように誇らしげで、その姿は見ていてほほえましいくらいだ。祭りのときはだいたいこうである。
ただ見ていて残念というか、むしろ不思議に思うことがひとつだけある。
いつも感じることだが、いまひとつ信心が足りないように見えることだ。
きちんとお参りしている姿を一度も見たことがない。写真を撮ったり、境内のお店を覗いたりして、とにかく落ち着きがない。当然熊手も買わない。見るだけである。ちゃんとお参りしないからいつまでたっても開運招福のご利益がないのではないか、と皮肉のひとつも言いたくなる。いったい何をしに来ているのか。
そう思って改めて観察してみると、どうも目的はお祭りであることがわかった。酉の市はお祭りなのである。そう考えると三社祭も浅草寺のほおづき市も、12月の羽子板市もみんな祭りでやっぱり写真を撮ったりしてうろうろしている。行動パターンはいつも同じ。
もともと江戸っ子は女房の着物を売り払ってでも祭りにかけつけるほどの祭り好きと言われている。そう思って眺めれば特に不思議なことではないのかもしれないが、その一方で熊手を持って歩いている社長さんのように信心深い江戸っ子もたくさんいる。多数派はこちらであろう。
とはいえただの祭り好きがいるのもまた事実である。同行している江戸っ子はこの典型であろう。祭りには何をおいてもかけつけ、その雰囲気に浸る。毎年わくわくしながらそのときを待っている。当日は朝からうれしくてたまらない。道すがら見ず知らずの神社でお祭りをやっていると気になってしかたがない。そのうち我慢できなくなって覗くことになる。生まれついての祭り好きだ。どうしてそんなに祭りが好きなのですか、なんて野暮なことは聞いてはいけない。理由なんかない、好きなものは好き、ただそれだけ。
江戸っ子らしいのはやっぱりこっちかな。
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<都内 酉の市ガイド>
鷲神社(台東区) http://www.otorisama.or.jp/kotoshi.html
花園神社(新宿区) http://www.hanazono-jinja.or.jp/mt/page/a3.html
大國魂神社(府中市) http://www.ookunitamajinja.or.jp/matsuri/tori.html
長國寺(台東区) http://torinoichi.jp/
富岡八幡宮(門前仲町) http://www.tomiokahachimangu.or.jp/gyoji/saiji/torinoichi/htmls/torinoichi.html
波除稲荷神社(築地) http://www.namiyoke.or.jp/index.html
葛西神社(金町) http://homepage3.nifty.com/kasaijinja/otorisama/otorisamabody.htm
渋谷宮益御嶽神社(渋谷) http://www.shibuyamiyamasu.jp/mitake/main.html
目黒大鳥神社(不動前) http://www.ootorijinja.or.jp/2.tori.htm
四谷須賀神社(四谷三丁目) http://www.sugajinjya.org/event.html#Anchor-47857
天沼八幡神社(荻窪) http://www.todoland.co.jp/amanuma/torinoiti.html
新小岩厄除香取神社 (新小岩) http://shinkoiwa-katorijinjya.com/pc/
十番稲荷神社(麻布十番) http://www.jubaninari.or.jp/tori.html




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